スペイン映画大好き!
¡A mí me gusta cine español!
El viaje a ninguna parte(どこにも着かない旅)
旅芸人の物語。出会いと別離。内戦後の時代の厳しさ―――スペイン映画界が得意とするこのテーマを語るなら、なんといっても最初に揚げたいのが、1986年制作のこの映画である。スペイン映画のための権威ある賞として現在ではすっかり定着した「ゴヤ賞」の第1回の受賞作品。名優フェルナンド・フェルナン・ゴメスの監督作品として記念すべき作品でもある。
旅の役者たちに対するオマージュと言えるこの作品を、フェルナン・ゴメスは彼自身の生きてきた時代そのものに対する深いノスタルジーを込めて描いている。
旅の一座を率いる一家の若者、父親、祖父という三つの世代それぞれの愛と葛藤。映画に押されて、もう斜陽の座から這い上がることのない旅回りの芸人たちの貧しさ。それらすべてが、今は年老いた役者自身の回想として語られ、そこでは過去の現実と、彼の幻想と、旅の舞台の上での芝居の三つが微妙に入り混じって、一種不思議な世界を織りなしていく。
彼が心の中でなぞっているのは、戦後の荒れすさんだスペインの村から村へ、絶えず進んでいくしかない、しかしどこへも着かない芸人たちの旅。そして彼の人生そのものという、どこにも行きつかなかった旅・・・。
そう並べていくと話は暗くなる一方のようだが、その底辺に常に流れるスペイン映画独特の諧謔、画面の絵画的な美しさ、それぞれが達者な俳優たちの淡々とした演技が、この映画を単に旅芸人という特殊な世界を描いたものというだけではなく、ひとつの時代に生きる人々の群像とその哀歓を浮き彫りにするものにまで普遍化している。戦後70年経った現在でも見る価値のある、むしろこの時代を知らない若者たちの時代になったからこそ、一層見てほしい映画といえるだろう。
原題:el viaje a ninguna parte
監督:Fernando Fernan Gomez / フェルナンド・フェルナン・ゴメス
出演:Jose Sacristan / ホセ・サクリスタン
Gabino Dieg / ガビーノ・ディエゴ
Fernando fernan Gomez / フェルナンド・フェルナン・ゴメス ほか
1986年/スペイン/スペイン語/134分