スペイン料理ひとりごと・その9
Entre cazuelas y morteros
「人は交わる友により…」
18. de junio. 2012
「人は交わる友により、良きに悪しきに変わるなり・・・」
これは、私が高校で教えられた、すごく古風な歌(明治天皇の御后作)の1節です。私ならこれをちょっと変えて「人は食べるものにより…」と言いたいところです。
フランスの食評論家として名高いブリヤン・サバランにもこんな言葉があります。「あなたが何を食べているか言ってごらん、あなたが何者かあててみせよう」。
何を食べているか? これはとても基本的で重要な命題です。スペインのように、地方ごとに大きく異なる文化圏を構成している国では、食べ物も地方によって大きく異なります。大げさではなく、「何を食べているか」が、どこの地方のどんな文化圏の人であるかを表していると言っても言い過ぎではないのです。
ちょっと「私は誰?」クイズをしてみましょう。
これは、ほぼ間違いなくバレンシア地方の人でしょう。アラブ民族によって米の栽培が定着したバレンシアはスペイン一番の米どころとして知られ、米料理の多くはこの地方生まれのもの。反対に、米はめったに食べないという地方も珍しくありません。
「港で水揚げした魚は、すばやく揚げておいしく食べます。」
これは南部アンダルシア地方の可能性が高いですね。アフリカ大陸に近く夏には40度までも気温が上がるアンダルシアの沿岸では、とれたての魚はすぐ茹でるかすぐ揚げるのが一番賢い料理法です。そしてオリーブ油の最大の産地であり、オリーブ油をふんだんに使うアラブ民族の嗜好を色濃く受け継いだ地方でもあります。
「放牧している羊のチーズと豆が、もっとも日常的なタンパク源です」
これは、中央部ラ・マンチャ地方。広大なメセタ(台地)には羊が放牧されていて、その羊の乳から作るケソ・マンチェゴはスペインの代表的なチーズです。かつて魚といえば干したタラくらいしか入手できなかったこの地方には、チーズ以外では豆や雑穀などが主な食材という質素な食事が今も受け継がれているのです。
「オリーブ油は作っていないので買ってこなければなりませんが、だからこそ上手に使います。土鍋を使う美味しい料理がたくさんあります。」
これは北部バスク地方。オリーブ栽培の北限に位置しているため南部のように豊富なオリーブ油があるわけではないのに、だからこそ素晴らしい料理の数々を生み出した、美食で名高い地方です。
さて皆さんは、今日何を食べているでしょう。日本料理? フレンチ? イタリアン?中華? それともファーストフード? デパ地下?・・・・。これでは、新しい食文化圏の、新しい食分布地図を書かなくてはいけませんね。
渡辺 万里