スペイン料理ひとりごと・その13
Entre cazuelas y morteros
タンポポのサラダ
5. de mayo. 2015
数日前、お友達のフェイスブックへの投稿に、この写真を見つけました。
サラダのための、タンポポの葉っぱ。この言葉を見た途端に、O・ヘンリーのとある短編が鮮やかに脳裏に浮かびました。
・・・連絡がとれなくなった恋人ウォルターが、恋を打ち明けた日に花輪にして頭に載せてくれたタンポポの花。今、タイピングしなければならないレストランのメニューに「タンポポの葉、ゆで卵つき」という言葉を見て、思わず間違って「愛しのウォルター、ゆで卵つき」とタイプしてしまった若い女性。やがて、そのメニューを見た恋人が、彼女を探し尋ねてきてくれる・・・。
牧歌的な、そして何とも可愛らしい恋物語を、よく母と二人で読み直しては、「愛しのウォルター、ゆで卵つき」と言って楽しんだのは、何十年昔のことでしょうか。
本のなかの食べ物は、あるときは著者の意図したとおりに、ある場合には著者の意図した以上に読者の食べ物への思いをかきたてます。O・ヘンリーは多分、言葉の質感とイメージを楽しんで欲しかっただけかもしれませんが、私の脳裏には、サラダにもなれば花冠にもなるタンポポのイメージが、その時以来何十年も、刻まれていたのです。
そんな風に読者の記憶に残る食べ物の話を書けたらいいな、とひそかに願うこのごろです。
ところで、ここでとりあげた「アラカルトの春」。ほかにも「賢者の贈り物」、「最後の一葉」など、O・ヘンリーの小説は、今の若い人たちにとっては、いささか古めかしいかもしれません。
でも彼の愛の物語には、どれも感傷的ではあるけれど、美しいものへの憧憬と控えめな恋や口に出さない思いへの共感があふれていて、人の心をしばし暖かく和ませてくれると思います。一度手に取って読んでみませんか?
渡辺 万里