スペイン料理ひとりごと・その10
Entre cazuelas y morteros
「しつこい」と「あっさり」
11. de diciembre. 2012
「しつこい」と「あっさり」
実際にスペインにいると、ここの料理はやっぱり濃厚だな、と改めて感じます。同じ量、同じように見える料理を食べても、日本でのそれと比べてずっと満腹感がある。それは油の使い方や塩味のつけ方などによって、微妙に料理の出来上がりが変わってくることの結果なのだろうと思います。
その最も顕著な例が、世界を代表するレストランとして君臨してきた「エル・ブジ」の料理でしょう。スプーンに一杯だけ出されるのに満足感がある。インパクトがある。というより、ひと匙でちょうど美味しいと感じるように作られた味なのです。そういう料理を20皿も30皿も食べるというのは、あっさりした日本料理の小鉢を20個食べるのとはまったく違う、相当な迫力だということが想像できるでしょう。
ところが日本人は、基本的に「あっさり」が好き。テレビの食べ歩き番組を見ていると、料理の感想として「あっさりしていて美味しい」という言葉が連発されることからも、それはよく分かります。
でも、自分たちの身に降り掛かっている問題についても「あっさり」忘れたり「あっさり」無視したりしてしまうのは、どうなのでしょうか?
政治家のやり方に納得できない、今の情勢に不満だと、毎日のように抗議デモを繰り広げ、友達とも家族とも、集まれば必ず現状への不満や批判について「しつこい」くらい議論するスペイン人たち。彼らにこう尋ねられました。
「放射能汚染の問題はどうなっているの? ちゃんと解決していないままなのに、どうして誰ももっと抗議しないの? 汚染で被害を被っている人たちへの補償や援助を、政府はちゃんとしているの? どうして、そのことについてのニュースがどこにも出ないの?・・・」
私たちも、自分たちの未来を守るために、もう少し「しつこく」なりませんか? 子供たちに少しでもきれいな空と海と大地を残すために、「うるさく」なりませんか?
私たちの好きな「あっさり」した日本の食事。たとえば貝のお味噌汁も、きのこの炊き込みご飯も、安心して食べられなくなってしまったら。産地を聞き、検疫が済んでいるかどうか確認しないと、お米も買えなくなってしまったら・・・。
どうすれば、誰を信頼すれば、そんな未来を少しでも防げるのか。皆さんのお知恵を借りて、自分にできることを少しでも探したいと痛感する今日この頃です。
渡辺 万里